北口雅章法律事務所

弁護士のブログBlog

小林直樹名誉教授(憲法学)のご冥福を祈る

わたしが大学で憲法を習ったのは,
樋口陽一名誉教授(元東北大学教授)からで,
同教授が東大での初講義をされたときだった。

したがって,小林教授の講義をすべて聞いたわけではないが,
あの「分厚い」教科書は,一応は,買って読んだ。

樋口教授が東北大から東大に移籍されるまで(芦部教授が退官されるまで)は,
東大では,芦部信喜教授と小林直樹教授が交代で,憲法の講義を担当されていた。

芦部教授の「権威」は別格であったが,
モグリで聴講した範囲では,正直なところ,講義自体は面白いものではなかった。
小林教授の憲法講義をモグリで聞いたときの感想・印象も,
なんとなく政治学に近いなあ,というものであった。
憲法学が面白いという学生は???ではないかな,と思う。

私の学生時代,
小林教授の「自衛隊=違憲・合法論」がデカデカと新聞に出たときは,
学生の分際ながら,口が開いた。
芦部教授も,さすがに法律論として破綻している旨の批判をされた,
とのウワサを聞いた。

が,

小林教授の思想的立場は,個人的には,大層共鳴できるものだった。というよりかは,小林教授のような人道的で公明正大な先生方の謦咳に触れる中で,私自身の考え・思想が形成されてきたように思える。

わたしは,憲法とは別の分野での小林教授のゼミに参加したことがある。
あの当時,小林教授は,既に世界は,地球的規模で危機的な状況にあるという問題意識をもってみえた。そして,小林先生は,フランスのある「寓話」をもって,今日の世界的状況を解説されたのが,印象に残っている。

すなわち,

「池の中に,一匹の蛙(かえる)が住んでいて,小さな小さな蓮が浮かんでいたとしよう。その蓮は,(癌細胞のごとく)1日に二倍の大きさになるという特徴はあるが,極微小な大きさだったとしよう。1メートル四方の池で,1ミクロン(0.001ミリメートル)四方の蓮では,殆ど見ることもできない。その大きさが1㎝四方に育つのにはかなりの年月が必要となろう。しかし,その蓮が,池の面積の16分の1の大きさまで育ってきたとき,どうなるか。そのわずか4日後には,池全体が蓮で覆われ,蛙は,窒息死することになるのだ。現在の人類の置かれた状況は,その『蓮が池の面積の16分の1の大きさまで育ってきた』状況かもしれないのだ。」

という趣旨の話だった,と記憶している。

謹んで御冥福を祈ります。

 

(3月3日 朝日新聞)